主婦の書く官能小説

お気楽主婦が暇に飽かせて書いた官能小説です。

毒牙(3)

そう自分を戒め机に戻ろうとしたその時、生徒用の下駄箱から一人の男子生徒が姿を現した。長身、ウェーブのかかった明るい栗色のセミロングの髪。バッグを右手で肩にかけ、左手はポケットに入れて、ローファーのかかとを踏みつけて物憂げに歩く。

(藤ヶ谷!)

この城南高校の問題児にして全教師の間の嫌われ者。中学2年の頃から良からぬ連中と付き合い始め、高校には何とか進学したものの、2年時にオートバイの無免許2人乗りで検問を突破しようとして警官を引っかけ、現行犯逮捕。運転していた仲間は少年院に収容になったが、やつは後ろの座席にのっていただけということで鑑別所送致の後、審判で保護観察処分になった。当然その一件で前校は退学を余儀なくされ、翌年の春に情報ビジネス科の2年に転入してきたのだ。

今は3年だが、転入の際に1年ダブってるので年齢は他の生徒の一つ上の19歳、周りからは「くん」づけで呼ばれている。本当か嘘か、友人たちが勝手にジャニーズ事務所に写真と身上書を送ったところ、トントン拍子に話が進み、参加するユニットの名前まで決まっていたのを本人が「くだらねえ」と一蹴したと聞く。

小休止しているドリルチームの生徒たちの前を、心持ち猫背の彼が通りすぎると二人の女子部員が駆け寄った。勿論話す声はここまでは聞こえないが、二言三言彼が短く受け答えをすると、駆け寄った女子が小躍りして喜んでいるのが見て取れた。

「ばかか!あんな不良のクズに夢中になりやがって」
思わず太田は呪詛の言葉を吐き出した。

藤ヶ谷には煮え湯を飲まされたことが二度、あった。一度目は昨年、2年だったやつに理科総合を教えたときだった。

授業中に机間巡視をしていて、悪びれもせず堂々と漫画雑誌を読んでいたやつをを叱責したところ、藤ヶ谷は突然けたたましい音を立てて立ち上がったかと思うと、上から太田を睨みつけた。
身長166cm、男の中では小柄な方に属する太田は、180近い藤ヶ谷から完全に見下ろされる形となって、思わず一二歩後ずさった。
「るせえな、オッサン。誰にも迷惑かけてねーだろーが。うだうだ言わねぇで、そのちんぷんかんぷんの授業にはよ戻れや」と言い放ち、太田が取り上げた雑誌をゆっくりと再び自分の手に取ると、それでポン、ポン、と太田の頭を軽く叩いたのだ。

クラス中から失笑が漏れ、太田はすっかり面子を潰された。「何がおかしい!」と怒鳴ってクラスを見回すと慌てて皆目を伏せたが、明らかに教室のムードは太田にアウェイだった…

だが、後に起こった「事件」と比べたら、そのときのことは大したことではない。体育科の屈強な教師を除けば、この城南高校の同僚たちは多かれ少なかれ似た経験をしているし、太田の方に非は、少なくともない。問題はもう一回だった。